渋谷慶一郎×嶋浩一郎 TALK EVENT #2
パリと東京を拠点に活動を展開し、アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』を東京、オーストラリア、ドイツと世界を巡りながら公演する音楽家 渋谷慶一郎さんと、博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEOでクリエイティブディレクター・編集者として知られる嶋浩一郎さんによるトークイベントが2019年6月8日BANG & OLUFSEN KYOTO POP-UP STOREにて開催されました。ラジオ番組での共演を通じて親交を深めてこられたお2人による貴重な対談の後編をお届けします。
(#1はこちら)
渋谷:「アンドロイドのオペラを作ってみたい」と思いつきで言ったけど、色々考えれば考えるほど「これは面白いプロジェクトなんじゃないか、やっぱりやりたいな」と思って。
嶋:同時並行で何年もかけてやっていたのが、アンドロイドが指揮者になってオーケストラが演奏するっていうプロジェクトですよね。これはどういうきっかけで。
渋谷:僧侶とかアンドロイドとか初音ミクとか、普通の人間とあまりコラボレーションしてない気がしますけど(笑)、2013年に『THE END』っていう僕が一番最初に作った初音ミクが歌うオペラを、パリのシャトレ座っていう1800年代にできた古い劇場でやったんです。興業は大成功したので、そこの支配人が「次お前何をやるんだ」って帰りがけに聞かれたんだけど、何も考えてないですよね、終わったばかりで疲れてるから。
嶋:僕もうかがいましたけど、大成功でしたね。
渋谷:3日間の公演が完全ソールドアウトで、終わった後2時間ぐらいサイン会と討論会が続いて、全然劇場を閉められない状態になって。 だからその時僕が考えてたのは「やっと終わったから早く遊びたい」と。
嶋:最後の日、朝まで飲みましたよね。
渋谷:パリのクラブで半分寝ながら飲みましたね。ただ、さっきの話に戻るとその支配人に聞かれたときにとっさに「アンドロイドのオペラを作ってみたい」と思いつきで言ってみたんです。そうしたら「それは素晴らしい、ぜひうちの劇場でやろう」と言われてやることになったんだけど。で、劇場としては日本の素晴らしいクリエーターと仕事がしたいと言われて、名前だしたらみんな知ってるような有名な友達のアーティストに参加してもらって実際にパリで打ち合わせもしたんだけど、その後フランスの文化予算が半分にカットされて、もう予算的に無理みたいな感じで一回プロジェクト自体が紛糾して弾けちゃったんです。ただ僕は、最初は思いつきで言ったけど、色々考えれば考えるほど「これは面白いプロジェクトなんじゃないか、やっぱりやりたいな」と思って。だから、2013年に思いついて14年に弾けて15、6年は鬱々とした日々を送ってました。他にも色々やってるんだけど、それがずっとそれが頭にあって。例えば本屋に行くと、アンドロイド・オペラのプロジェクトが全然スタートしてないのに、「歌詞は何がいいかな」とかそういう空想をしながら、ずっと本棚を見てるっていう危ないヤツでしたね。
嶋:渋谷さんは、本のタイトルや小説の一節から歌詞のインスパイアをされることとか多いですよね。本屋にもよく行かれる。
渋谷:本屋はランダムウォークというか、歩きながら読んだり考えたりできるからいいんですよね。
嶋:本屋をやってる立場としては嬉しいです。
渋谷:今日も嶋さんに誠光社さんに連れてってもらったけど、面白い本屋はインスピレーションのもとです。ネットで検索するのも好きなんだけど、やっぱり歩いて目に入ってくるもので、ある程度限定されている中で刺激受けるのが好きで。で、アンドロイドオペラは2017年にプロトタイプをオーストラリアでのフェスティバルでやったんですよ。
嶋:アンドロイド自体を作ってるチームは、どういうチームなんですか?
渋谷:大阪大学の石黒浩さんの研究室です。2014年くらいかな?インターネットの番組で対談したらすごく気が合っちゃって。収録終わってそのまま飲みに行って、「アンドロイドのオペラを作るって言っちゃったから協力してもらえないですか?」って相談したら「それは面白い」と言ってもらって。そのあと、アンドロイドの動きのコントロールを東京大学の池上高志さんに協力してもらって、その3人で始まったんです。
嶋:アンドロイドが肩を動かした瞬間に、リズムがピタッと合う。
渋谷:人間とアンドロイドがコラボレーションするときに、コミュニケーションの原理的なことに気づくっていうのは面白いなと思いましたね。
嶋:まさにコンダクターとしてのアンドロイドを作って「この人が指揮者ですからよろしく」っていうふうに。オーケストラの団員の皆さんは、最初はきょとんっていう感じでしたか?
渋谷:大混乱ですよね。
嶋:ですよね。人間なら何となく呼吸やリズムが伝わるというか、何がしたいんだろうなっていうのが目と目で通じあったりできそうですけど。
渋谷:人間って、アンドロイドとかテクノロジーに対してすごい厳しいし、冷酷だっていうことがよくわかりました(笑)。アンドロイドがプログラムミスでちょっと動きが遅くなると、「昨日より全然遅い」ってすごい勢いで指摘するんだけど、おじいちゃんの指揮者だったら「疲れてるのかもな」と思うじゃないですか。だから「今日はアンドロイドは疲れてるんだなって思ってほしい」と僕がなだめたりすることもあったり。あと、人間だったらバッて強く振れるけど、アタックを強く出すことができないから、なかなかカウントできない。そうすると、僕たちもどうやってカウントするかってことばかりを考えるじゃないですか。
嶋:セッションを何度も何度も繰り返して、アンドロイドの方も動き方とかを注意していくと。
渋谷:一番転換になったのが、アンドロイドが振るテンポの時に肩を揺らせたんですね。
嶋:呼吸するように肩を上げ下げしてみた。
渋谷:呼吸している人間みたいにオーケストラの人たちが感じられるから、コンセンサスが取れた気持ちになる。
嶋 アンドロイドが肩を動かした瞬間に、リズムがピタッと合う。それってすごくいい話ですね。
渋谷:そうそう。「これだったら私たちできそうです」って言われて。でも、呼吸で会話するって、別に音楽だけじゃなくて喋ってるときもそうだけど、人間同士だとあまりそういうこと考えない、当たり前だから。ただ、人間とアンドロイドがコラボレーションするときに、そういうコミュニケーションの原理的なことに気づくっていうのは面白いなと思いましたね。
嶋:1回全てを削ぎ落としてゼロから作っていくと、何によって意思が通じ合ってるんだろうっていうのが、この動きだったんだみたいなことがわかったと。
渋谷:そうですね。そこがわかったのはすごく面白い瞬間で。
嶋:東京の日本科学未来館でやられて、同じパフォーマンスをドイツのデュッセルドルフでやられて、アンドロイドはバージョンアップしたんですか?
渋谷:バージョンアップしました。日本科学未来館でやった時は今のアンドロイド「オルタ3」よりひとつ古い「オルタ2」でした。未来館のときにこのプロジェクトはいけるなと思えた瞬間があって。あそこに大きな地球儀があるじゃないですか。常設だから動かせないし、どちらかと言うとかなりアピールが強いですよね。だからコンセプチュアルにミニマルなことをやろうとしたら、すごく邪魔になるんです。でも実際やってみたら、あの地球儀が元々あったことが奇跡的だった。アンドロイドが地球儀の下にいてオーケストラがいて、なんてセットを組もうとしたら普通はとても出来ることじゃない。でも、もともとあった地球儀がバッチリはまったからこのプロジェクトは運を持っていると思ったんです。これと同じような経験を以前したことがあったんです。『The End』をやった時に、初音ミクの衣装をルイ・ヴィトンのデザイナーのマーク・ジェイコブスに頼んだんですけど。彼の最後から2回目のコレクションだったかな、升目のようなダミエ柄が象徴的なコレクションだったんですよ。それを初音ミクが着ている絵が送られてきて、試しにプロジェクションしてみたんです。そのとき、ちょうどプロジェクターのチェックをしていて、グリッドというか格子、升目が画面いっぱいに出るじゃないですか。そのグリッドと衣装のグリッドがぴったり合ったんですよ。
嶋:超偶然にも。
渋谷:そう。プロジェクト自体は困難を極めていたんですが、こういう偶然が起きるってことはいけるかもしれないと思った。だから、地球儀とアンドロイドの組み合わせを見てこんなにしっくりくるんだって思ったときも、この先いろんな困難があるだろうけど大丈夫だろうと思いました。僕は楽観的なので。
嶋:じゃあ、オーケストラの団員の皆さんとアンドロイドは最終的に打ち解けたんですか?
渋谷:打ち解けてましたね。
嶋:でも途中で文句言う人もいっぱいいたんですよね。
渋谷:不満そうな人もいましたけど、そういう人には特に優しくしました。
嶋:大丈夫だよって。
渋谷:何が大丈夫かよくわかんないけど、大丈夫だよって。
嶋:楽器によって、アンドロイドについて行きやすい人と、そうじゃない人ってあるんですか?
渋谷:アンドロイドについて行きやすいタイプとそうじゃないタイプの演奏家がいるんですけど、優等生的な演奏家は難しくて、オタクな感じの人は褒めるとどんどんアンドロイドと距離が近づいていく。
嶋:アンドロイドがコンダクターだけど、もう一人渋谷さんが全体のファシリテーターとしているんですね。
渋谷:人生で一番気を使ってるかもしれないですね、このプロジェクト。デュッセルドルフのときも、一番文句言いそうなおじいちゃんのバイオリン奏者がいて、その人を懐柔するところから始めなくちゃいけなくて。
嶋:デュッセルドルフのドイツ人の皆さんにも「何で自分がアンドロイドの指揮下で演奏しないといけないんだ」という人もいましたか?
渋谷:かなりいましたね。
嶋:それは日本人との打ち解け方とどう違いました?
渋谷:デュッセルドルフはもともと日本人が多い所で、 オーケストラにも日本人のメンバーがかなりいたし他の国籍の人もかなりいたから、ドイツのオーケストラとやってるという感じはしなかった。ただ、ドイツのオーディエンスは日本とかなり違いました。例えばアンドロイドがコンピューター制御から外れて暴走して、狂ったように早く振りだしたら人間のオーケストラはついていけないから破綻するかもしれないという要素を含んでるんですよ。だから、テクノロジーの制御や暴走に対して従属する、ついてくしか出来ない人間というのを舞台作品として見せるという可能性もあって。でもそんなのは冗談じゃないみたいな感じの人もいますね。レビューを読んでてもすごい反発を覚えている人もいるし。
嶋:ヨーロッパっぽいですよね。何でコンピューターに人間が制御されないといけないんだ、このコンサート自体なっとらんみたいな。
渋谷:そう。完全に指揮者がSでオーケストラがMっていうのがヨーロッパの基準で、人間中心主義なんですよね。だからアンドロイドみたいな人間じゃないものが中心にいて歌も歌うしコンダクターもするしっていうのは、ある種の反発が演奏家にもオーディエンスにもある。
嶋:機械がクリエーションをすることに、宗教的に違和感を感じた人もいたかも知れないですね。
渋谷:そう。ただ、本番前の公演が現地で近づいてくると「やったる」みたいな気持ちになるんですよ。反発とかも知ってるから。
嶋:やってみてどうだったんですか?
渋谷:成功したと思うんだけど、どこまでアンドロイド自身なのかとか、割とクリティークにそんな疑問が寄せられることが多かったですね。
嶋:いろんなことに気づきがたくさんあったってことですよね。ある意味、気づきながら前進するプロジェクト。
渋谷:今だにそうですね。だから完全版ではなくて、やるたびにバージョンアップしていく。
嶋:大阪大学の先生は見てらっしゃるんですよね。
渋谷:はい。
嶋:自分が作ったアンドロイドがそうやって使われてることを、どう思ってらっしゃるんでしょうか。
渋谷:日本科学未来館の時は「指揮するために作ったアンドロイドじゃないから、こんなに動かしたら壊れるよ」って言われました。自分の子供をこんな風にいじめないでくれみたいな。
嶋:働き方改革が必要なブラックな職場に連れてきちゃった感じですね。
渋谷:それは「オルタ2」だったんですけど、最新の「オルタ3」は、指揮とか歌うとかステージでやることを前提に作ってるから、怖いぐらいブンブン動くんですよ。ただ、やっぱり動かしすぎると壊れたり腕がもげたりするので。
嶋:制御が効かなくなった時は、オーケストラはどうなるんですか?
渋谷:今のところはまだお互いプリミティブな状態だから、制御をある程度セーフティにしてるんです。思いっきり外れたりしないように。ただ次ぐらいから、本当にアンドロイドがめちゃくちゃになってオーケストラが演奏できなくて帰るとか、そういうものも入れて行こうかなと思っています。
嶋:それをテーマとして考えてほしい。
渋谷:そうですね。
嶋:なぜ渋谷さんが揺らぎの音とかちょっと外しのある音とか一部欠落したものについていつも言われるのか、それを大事にする感覚っていうのがわかった気がします。
嶋:このプロジェクトは、これからも続くんでしょうか。
渋谷:そうですね。
嶋:具体的に決まってる公演はありますか?
渋谷:言っちゃいけないやつはいくつかあって、日本でもできたらいいなと思ってるんですけど、今はプロセスです。ほぼ決まってるのは、来年の頭ぐらいに、国外で。
嶋:ドイツとはちがうところで?
渋谷:ドイツとは180°違うタイプの国でやります。
嶋:機械と人間との関係や文化における考え方が違うと面白いですね。
渋谷:そうですね。ただ、かなり宗教心が強い国だから、それがどういう風に響くかっていうのはすごい興味がありますね。
嶋:ほかには。
渋谷:始まったばかりなのが、来年2020年8月のオリンピックとパラリンピックの間に東京の新国立劇場が新作オペラを作ることになって、僕が作曲で大野和士さんが指揮で、島田雅彦さんが脚本です。大野さんは世界的な指揮者で、新国立劇場の芸術監督でもありバルセロナのオーケストラの芸術監督をやっています。
嶋:島田雅彦さんて、オペラ書くの初めてですか?
渋谷:彼は何回かオペラの脚本を書いていて、彼自身オペラが大好きで自分でも歌うんです。もともと友達で、今も喧々囂々始まってるところです。アンドロイドもいるし、大編成のオーケストラもいるし、指揮者もいるし、オペラ歌手もいるし、100人の児童合唱団もいる。
嶋:アンドロイドから児童合唱団まで、かなり壮大ですね。
渋谷:そうですね。映像もすごいことになりそうだし、舞台美術もかなり大規模なものになりそうです。僕はなにしろ音楽作らなくちゃいけないから今年の後半からはスタジオに籠ります。
嶋:渋谷さんの音楽の作り方って、例えばオペラを作るときに、意外にセッションするんですか?島田さんと話したり。
渋谷:台本を先にもらいます。ただ、僕の音楽のスタイルにそぐわない言葉遣いってあるんですよ。「なんだよね」とか「それはなんとかさ」とかいう言葉は無理だから直してもらったりします。
嶋:それは面白いですね 。直感的に、これは自分の音楽に合わないっていう言語を認識する感覚があるんですね。
渋谷:割とはっきりありますね。
嶋:この前、僕らがラジオのテーマで1回目にやったミシェル・ウエルベックっていうフランス人の現代作家のテキストも使われてましたよね。ミシェル・ウエルベックのテキストが、オペラに合いそうな感じがあったんですか?
渋谷:そうですね。この言葉をアンドロイドが歌ったらすごく面白いというか、意外というか、ギャップがあって。
嶋:先ほども話が出ましたが、本屋を歩いてるときってまさにそういう感覚で?
渋谷:そういうことを常に考えてますね。
嶋:音と文章がかなり同期してるってことですね。
渋谷:そうですね。あと、作家の遺作って面白くて。全盛期の作品に比べるとどこか不安定で完成度も低かったりするんだけど、その微妙な散らかり方とかゆらぎ方っていうのはAIやアンドロイドではまだトレースするのは難しいだろうなと思っていて。逆に、ちょっと不安定に揺れているクオリティのテキストを、アンドロイドが歌うっていうのがいいなと思って。
嶋:意図しているケースもあるし意図してないケースもありますけど、あえてズレている部分がある文学作品とか音楽も、渋谷さんはすごく気にされますよね。
渋谷:そうですね。
嶋:僕は文楽が好きなんですが、近松門左衛門が世話物っていうジャンルの脚本をたくさん書いたんですけど、彼は桑田佳祐的なんです。字足らずとか字余りがものすごく多い。なんでここがズレてるのかなみたいなのがあって。文楽の語りを聴いていると「あれ?ここちょっとずれてる?」みたいな感じが聞き手の心を掴むんです。そんな感覚を作家の文章から読み取るってすごいですね。
渋谷:結構ハラハラするんですよね、読んでいて。
嶋:まさに音楽的な本の読み方ですよね。
渋谷:蔵書は何冊でしたっけ?
嶋:僕ですか?本屋やってるくらいんなんで3万冊くらいかな。
渋谷:速読術あります?
嶋:併読でどんどん読むし、全部読まなくてもいいと思っちゃうタイプです。
渋谷:僕もそうです。中学のとき、国語の点数が良すぎて偏差値測定不能だったんですよ。問題で、例えば文章が書いてあってこの時の主人公の気持ちはどれでしょうって3つぐらい選択肢があって、その3つの文章のデザインを見ただけで答えがわかったりしてました。
嶋:文章がデザインに見えて、文章が音楽にみえるっていう、なんか絶対音感以上の特殊な能力ですね。
渋谷:でも、例えば4つぐらいこれじゃないかというのがあって、1個ぐらいは絶対そんなはずないじゃんっていうのが混ざってるんですよ。
嶋:でも、似てるかも。フードエッセイを書かれている平松洋子さんという方がいるんですけど、老舗のうなぎ屋とか銀座のサンドイッチの話とかすごく美味しそうに書くんですが、彼女も同じようなことを書かれていました。飲食店のメニューがあるじゃないですか、かけ蕎麦とか書いてある。あれは文学だって。美味しそうなメニューの文字は、見た途端に美味しさとかが伝わってくるとエッセイで書かれてた。彼女は多分テキストを味覚で感じるようなスキルを持ってたりするんでしょうね。
渋谷:味覚に変換している。
嶋:何度も何度もそれをやっているとだんだん嗅覚が身についてくるだろうなっていう風に、今お話を聴いていて思い出しました。でもそれって僕からすると、本を読むときに頭の中がすごい状況になってて読みづらくないですか?昔からそうなんですか?
渋谷:例えばアンドロイドのプロジェクトが始まってから、テキストを探すっていうのは常に頭にあるんですけど、そんなに本を読む時間が取れないから、例えば科学系の本とか論文を集めたような本が大好きだったんだけど優先度高くできないし。文学とか哲学とか、アンドロイドが歌うのに適しそうな可能性があるものばっかりになっちゃいますよね。
嶋:でも今日は、なぜ渋谷さんが揺らぎの音とかちょっと外しのある音とか一部欠落したものについていつも言われるのか、それを大事にする感覚っていうのがわかった気がします。
渋谷:そうですか。欠落は大事ですよ。足りてないとか届かないって。
嶋:直近の告知はあったりしますか?
渋谷:やろうかどうか迷ってるのが、2009年に『for maria』というピアノソロのアルバムを出したんですけど今年はアルバムを出して10年なんです。だから『for maria』を全曲弾くっていうピアノソロのコンサートをリリースしてちょうど10年目の9月11日にやりたいんだけど、すごく忙しいからできるのかなっていうのがあって、でもやりたいし、今ちょっと揺れてます。
嶋:できるといいですね。場所が課題ですね、ピアノを弾ける素敵な空間。
渋谷:本当はこの会場ぐらいの広さで ピアノだけ置いてPAもなく、人数は100人とか200人ぐらいに限定してやるというのが一番いいんです。
嶋:じゃあ今絶賛気になってるし、計画中と。
渋谷:そうですね、やると決めたらすぐ発表すると思います。
嶋:皆さん楽しみにしていただいて。あとは『ラジオ第二外国語』を聞いてほしいですよね。毎月第3水曜日の夜です。ということで今日はラジオの話に始まって、声明のプロジェクトとアンドロイド のプロジェクトのお話を伺って、この後は9月11日のピアノ・ソロ・コンサートをやるかどうか。やることになったらぜひ行きたいと思います。どうもありがとうございました 。
渋谷:ありがとうございました。
渋谷慶一郎
音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。
2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。これまでに数多くの映画音楽やサウンドインスタレーションを発表。2012年には、初音ミク主演による世界初の映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」を発表。同作品はパリ・シャトレ座での公演を皮切りに現在も世界中で公演が行われており現在も上演要請が絶えない。2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドが人間のオーケストラを指揮しながら自ら歌う、アンドロイド・オペラ「Scary Beauty」を発表。これまでにパレ・ド・トーキョーでアーティストの杉本博司、ロボット研究者の石黒浩と、パリ・オペラ座でエトワールのジェレミー・ベランガールとなど数多くのコラボレーションを発表。世界的な人工生命の研究者である池上高志とは15年に及ぶノイズや立体音響による協働、開発を行なっている。
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嶋浩一郎
博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO |クリエイティブディレクター|編集者
1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。カルチャー誌『ケトル』の編集長、エリアニュースサイト「赤坂経済新聞」編集長などメディアコンテンツ制作にも積極的に関わる。2012年東京下北沢に内沼晋太郎との共同事業として本屋B&Bを開業。編著書に『CHILDLENS』(リトルモア)、『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(ディスカヴァー21)、『企画力』(翔泳社)、『このツイートは覚えておかなくちゃ。』(講談社)、『人が動くものが売れる編集術 ブランド「メディア」のつくり方』(誠文堂新光社)がある。
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藤原栄善
高野山 真言宗 鷲林寺・増長院 住職 高野山に伝わる仏教声楽、南山進流声明(なんざんしんりゅうしょうみょう)を、故中川善教師より25年に渡って学ぶ。現在「南山進流声明研究会」を主催し、1200年に及ぶ声明の伝統の研究と研鑽事業を推進。後進の育成とともに、国内外での公演を通じて南山進流声明の普及につとめ、宗派を超えて世界平和を祈る活動をおこなっている。 令和元年5月より高野山増長院の住職を兼務している。
写真:吉本和樹 編集:小夏麻記子、小夏浩一