生活の豊かさと五感に正直であること Vol.4(text by 古川 真由子)
昨年の夏、ファッション界を揺るがせたセリーヌのフィービー・ファイロ退任ニュースは、私にとっても例外なく、ショッキングな出来事でした。
ミレニアル時代、世の女性を風靡したと言ってもいい彼女の洗練されたミニマリズムの世界観は、女性を美しくエレガントにみせるだけでなく、現代に生きる知的でモダンな女性像を確立し視覚化させたのではないでしょうか。
ミニマム = 何かがそぎ落とされている、極限のシンプル が今なぜ人を魅了するのか、 ひとつは共通して強いメッセージ性が存在することではないかと思っています。
結果的にミニマムな表現に至るまでのプロセスも様々で、デザイナー自身のこれまでの経験や何がインスピレーションの基になったのかといった点は見た目にシンプルだからこそ興味深い点でもあります。
インテリア界で近年、ミニマリズムを表現するマイケル・アナスタシアデスは、今回、Bang&Olufsenから発表されたBeosound Edgeをデザインした超本人でもありますが、彼の発想源もとても面白いもの。
Beosound Edgeのインスピレーションを得たのは形さながら、コイン。
それも、立ったまま転がらずにバランスを保つ、エレガントなコインでした。
つい転がしたくなるようなフォルムはそのまま操作方法となり、実際に転がすことであらゆる機能が呼び覚まされるという仕組みもウィットに富んでいます。
Frank Hulsbomer
これを見たとき、以前彼がデザインした照明作品(IC Lights)も似たインスピレーションを得ていたことを思い出しました。このときは、ジャグリングをする人の手に吸い付いてみえる球と、その手からぱっと離れる一瞬の境界線を描いたといわれていますが、球体と直線の接地面についての追求は彼が今尚こだわり続けているテーマともいえそうです。
さて、先日の代官山で開かれたエキシビションでは1台から3台までをワイヤレスで操作した音を実際に楽しむことができました。まずとても重低音が力強いといった印象、でもひとつひとつの音は非常にクリアでスリムな見た目からは想像できないほど繊細でした。
ミニマリストたちが表現する、混じり気のない凛とした強さと美しさ、そして静寂の部分。
何かを削ぎ落とす際に意図のあるシンプルであること、また要素が少ない中での真の品質が問われる部分は人を惹きつけるのでしょう。
ミニマムの中にも感じられるあたたかさや柔らかさ、ひょっとしたら人間味のある?要素は決して全面に主張することなく感覚的に訴求され、どんなスタイルよりも強く美しく、洗練されているように思います。